健康・エコ住宅のストーリー 小田宗治建築設計事務所




 ここで紹介するのは、健康と環境をテーマとした長期優良住宅である。空気集熱式のソーラーシステム「そよ風」や、各種の自然素材・エコ素材を導入した、将来のスタンダードを先取りしたような住宅である。補助金の適用も受けており、コスト面でもリーズナブルなものとなっている。以下は幅広いケースで参考になると思われる、住宅の完成までのストーリーである。

建物正面



大宮K邸
LDK(T邸)
 

1.きっかけ

 施主のTさんは、ホームページを見て連絡頂いた方である。その数年前にページを見ていて、覚えてもらっていたそうで、その後ようやく希望に合う土地が見つかったのでメールを下さったとのこと。30代後半のご夫婦で、システムエンジニアをする旦那さんと、大学図書館の司書を務める奥さん、それぞれチューバとオーボエの楽器をたしなむ、音楽と本を愛するご一家である。お子さんは幼い息子さんが一人、アレルギーの症状があるということで、できるだけ自然素材を用いた、ハウスダストやカビのない、健康重視の家をつくりたいというお話だった。

 初めに一度お会いして、お互いの人となりを知り、では設計案を作ってみましょうということになったが、当事務所の手がけた住宅「大宮K邸」が気になっているということなので、まずはK邸を実際に見て頂くことにした。
 オーナーのKさんから承諾を得て、後日お邪魔し、建物の実際のスケール感、素材感、使われ方、経年変化の具合などを見てもらった。またTさんからKさんに、住み心地などを自由に質問してもらった。

 建物というのは、実際は写真に写らない要素が多く、実物を見て頂くのが一番である。特に「空間」にこだわった建物はそうだと言える。中で動いてみて、初めて生き生きとした空間性が体感される。今回、Tさんによると、K邸は写真で想像していたよりもかなり大きく抜けた空間に感じられたそうである。外壁のガルバリウム鋼板、内部のナチュラルな木の床の感じなどは、気に入ってT邸でも引き継ぐことになった。
(依頼先を検討する際は、このようにまず実作を見せてもらうことをお勧めしたい。依頼するかどうかはその後に決めても全然構わないからである)

 Tさんから一通り要望を伺い、敷地条件等を確認し、仮の設計案を作成した。最初の案というのは、それがほぼそのまま採用されるケースもあれば、大きく変わるケースもあるが、いずれにせよ、その案を見て、施主さんは今後一緒に進めて行けそうかを判断する訳である。プレゼンした結果、案を修正しながら、引き続き進めて行くことになった。施主さんにとっては、設計への期待感の他に、打合せがしやすいかどうかもポイントになると思われる。
 設計契約を交わし、本格的にプロジェクトがスタートした。
 

2.設計案を練る

 今回の敷地は、国道から一本奥に入った中低層の住宅地、大きな家が取り壊されて生まれた分譲地の内の一つである。広さは30坪で、南東の角地という好立地。そこに、南向き木造2階建のオーソドックスな佇まいの家が求められた。

 要望としては、
  • 日当たりと風通しをよくし、開放的に
  • 夏涼しく冬温かい造りに
  • 収納を多く
(ここまではほとんどのケースで共通していると言える)
  • 2階に居間を配置し、可動の間仕切を設けて、小部屋的なスペースをとりたい
  • 1階は旦那さんの在宅勤務スペースや、将来の子供室としても使えるように
  • ハウスダスト対策として、ホコリだまりや凹凸の少ない造りに
などが主なもので、その他細かい要望があった。

 約2週間ごとに打合せをして、基本設計を進めて行った。間取りは、ごくシンブルで直球なものに収斂した。2階全体を開放的なLDKとし、1階に個室と水廻りを配置。縦横に風の通り道を確保し、全体にフレキシブルな使い方を想定した。構造的な偏心率(壁の配置の偏り)を極小化するため、左右対称な構成を意識し、上下階の壁の位置もできるだけ揃えた。

 シンプルな間取りは、設計も簡単なように見えるが、意外とそうでもない。様々な要件を満たしていくとき、放っておけば複雑な間取りになりがちで、整理した間取りでそれらを満たそうとするのはむしろ難しい。ではなぜシンブルにするかと言えば、スペース的にも材料的にも無駄がなく、空間を最大限有効に使えて、光や風が届きやすく、工事もしやすく、設計・監理の目も行き届きやすいからである。(多くの場合、空間もすっきり美しくなる。もちろん複雑さの美というのもあるが)

 この建物に唯一複雑性を与えるのは、水平に延びるバルコニーと屋根である。車の乗り降り部分と、玄関、駐輪スペース、それぞれの上部に雨よけがほしいということから、2階のバルコニーを1m跳ね出すかたちにし、それらをつなげて雁行させた。また、バルコニーの上部にも雨よけ・日よけがほしいことから、2階にも屋根の跳ね出しを設けた。大きく跳ね出した軒裏は、図面では捉え難い立体的な表情を生み出す。こうした部分も含め、建物内外のイメージは、コンピューターの3Dモデルを動かしながら、施主さんに理解してもらうようにした。

 空間を決定づけるものとして、窓の取り方は重要である。構造的に必要な壁を残せば、あとは壁に空ける「穴」の大きさや形は、本来自由なはずである。が、そこにサッシという物体をはめることから、サッシの規格やコストが足かせとなって、「穴」の大きさや形が制約を受けることになる。窓が貧弱な家は、どうしても空間自体が貧弱になりがちなので、メリハリをつけていくつかは大きな窓を確保したい。小窓であっても、漫然と設けるのでなく、天井際や壁際に寄せれば、光が天井面や壁面を伝い、空間的な効果が得られる。今回もその辺を考慮して窓の配置を行なった。

図面

「そよ風」による空気の流れ

外観

個室
個室
 

3.仕様の決定

 追加の要望として、できれば長期優良住宅にしたい、ソーラーシステム「そよ風」を導入したいという話があった。

 「そよ風」とは、空気で集熱するソーラーシステムで、主に木造1階の補助暖房として使われる(いわゆる「OMソーラー」の仕組みを進化させたものにあたる)。仕組みは、鉄板などの屋根仕上の下に隙間を設け、そこで温まった空気を取り込んで、ダクトを通して床下に送り込み、基礎コンクリートに蓄熱させた上で、ゆるやかな温風を床下から室内に送り込むというもの。底冷えしがちな1階の床を、冬中ローコストで温められ、かつ、廊下も水廻りも切れ目なく全館暖房できるのがメリットである。結露とカビの防止にも有効ということで、今回特に希望された。これに合わせ、屋根の形は南向きの片流れ形状に決まった。

 長期優良住宅は、補助金が受けられるのも魅力である。工務店によっては200万円もの補助金が適用できる場合があった(全建連加盟工務店など)。ちょうど「大宮K邸」を施工した工務店がそうで、ここは「そよ風」の工事も得意なことから、今回の依頼先の有力な候補となった。基本設計ができた段階で、複数社から概算見積りをとり、すでに候補は絞り込んでいたが、Tさんとこの工務店に行って詳しい話を聞いたところ、しっかりした仕事をしてくれそうな感触を実感され、その方向で固まって行った。
 長期優良住宅では、耐震性、耐久性、省エネ性等を一定以上に高めることになる。各種計算が必要になるが、工務店にも協力してもらって進めた。その結果、省エネの条件を満たすために、大きな窓にはLow-Eペアガラスのアルミ樹脂複合サッシ(遮熱・断熱効果が高い)を採用し、屋根・壁には次世代省エネ基準適合グラスウールの断熱材を施すことになった(特に屋根には二重に入れた)。

 木造の場合、構造については、合理的な金物工法(テックワン、クレテック等)をお薦めしているが、今回もそれが採用された。Tさんのこだわりで、柱・梁は集成材でなく無垢材を使うことになり、室内ではこれを現しにする真壁造とすることにした。

 仕上材の選定は、実物のサンプルを取り寄せ、Tさんに確認してもらいながら決めていった。
 外装はガルバリウム鋼板。耐久性・メンテナンス性・コスト等のバランスがよく、ヒビ割れたりせず伸縮できるメリットがある。見かけはシャープな工業製品だが、現代の民家的な材料とも言える。今回は張り方を工夫して、白い水平の軒裏とコントラストをつけた。
 軒裏は、何度か使っているガイナという防汚・弾性塗装を採用した。

 内装は、一転して柔らかな雰囲気の自然素材・エコ素材。お子さんに接する部分でもあり、特にこだわった。床は、無垢のフローリングにキヌカ(米ぬかオイル)をTさん自身で塗ることになった。壁は、白色系の素材をいくつか使い分けている。
  • 漆喰‥‥外壁の内側、石膏ボードの上に施工。有害物質の吸着効果あり
  • モイス‥‥間仕切り壁と天井に。多機能ケイカル板を素地のまま使用。リサイクル可能なエコ素材で、有害物質の吸着効果あり
  • オガファーザー‥‥収納内に。木のチップをすき込んだ紙クロスで、ローコスト、調湿性あり
  • リボス‥‥木の柱や建具に。アレルギー対応の自然塗料
 これらは、高機能なだけでなく、それぞれに異なる素朴な白の質感を楽しむことができる。スギやヒノキの柱も、木目を残しつつ白く染色されるため、木がむき出しに主張しない穏やかな真壁造になる。
 各種素材は、息子さんにアレルギー反応が出ないか事前にテストしてもらって、最終決定した。
 

4.トラブルを越えて

 詳細な図面を完成させ、本見積りを取った。今回は特殊なケースで、すでに施工者が決まっていたが、通常はここで複数社から見積りをとり、施工者を決めることになる。結局、200万円の補助金(全建連加盟工務店の長期優良住宅先導モデルによる)の効果もあり、工務店の見積りは予算内に収まった。キッチンの筐体や収納家具については、馴染みの家具屋に分離発注してコストを抑えてもいる。確認申請も通った。これで一安心と思われた。

 その矢先、工務店から連絡があった。補助金の「枠」が、申し込む寸前で埋まってしまったという。すでに予約手続きは済んでいたので、事務局に直談判もしてみたが、どうにもならないとのこと。どうやら、残り枠が少ないという情報が流れた後、申し込みが異例の早さで殺到したらしい。後に、エコカー補助金でも同様なことがあったようだが、公的な補助金というのはこのようにあてに出来ない面があるということを思い知った。しかし商談はこれをあてにして進めることになるため、買い手にとってはなかなか厳しいものがあるとも言える。
 現実化するリスクとしては説明を受けていなかったため、施主さんとしては納得し難いものがあった。この工務店を選んだ理由の一つが崩れたことにもなる。工務店自身も、予想外の事態で、むしろ被害者だったかもしれない。プロジェクトは膠着状態となった。

 こうしたトラブルの際、設計事務所は一定の役割を果たすことにとなる。工務店と施主さんが直接ぶつかれば対立が募るだけになりかねない。双方と取り次いで、打開点を探していった。

 そこに、一つ情報が入った。地域木材を使用した長期優良住宅に対し、「木のいえ整備促進事業」という別の補助金制度が、まもなくスタートするとのことだった。不運もあれば幸運もあるものである。
 補助金の額は120万円で、当初の想定よりは下がる。工務店としては、落ち度ない対応をしてきたつもりだが、補助金が受けられないリスクについては説明不足だったということで、多少値引きをするということに落ち着いた。総合的な判断の上、Tさんも納得して、進めて行けることになった。
 半月後に「木のいえ」補助金は無事受け付けられ、工事に着手することができた。雨降って地固まり、地鎮祭が晴れやかに執り行なわれた。
 Tさんとの出会いからここまで、15回ほどの打合せが重ねられていた。

外観

LDK
LDK
 

5.完成へ

 設計の期間と同じく、工事が始まってからも、要所のポイントやプロジェクトの進捗状況について、随時施主さんに説明を入れていった。工事監理は週に1回を基本に、必要に応じてプラスして行った。猛暑の現場の中で、細かな部材の納まりについて、妥協せすに考えたり指示を出すのは、根くらべのようでもあった。この年の夏の暑さは特にひどく、大工さんがたまらず簡易クーラーを現場に持ち込むほどだった。現場監督も大工さんもよくやってくれ、工期通りに無事完成に至った。

 引渡し前に、知人・関係者・希望者を呼んで内覧会が開かれた。
 完成した建物は、長期優良住宅としての様々な規定を守っているが、それを制約とは感じさせないものとなった。

 視覚上26帖の広がりがあるLDKは、Tさんのこだわりで2.7mの天井高。ほぼ製作限界となる天井高一杯の大型引戸が、その空間をスムーズに仕切る。
 大きな窓に設けた障子は、普段は壁の中に隠れているが、西日や隣家の視線を遮るために引き出せば、空間は柔らかい光に包まれる。破れない強化障子紙を両面張り(太鼓張り)にしているため、断熱性も高く、桟にハウスダストが溜まることもない。

 そして、アレルギーに良いとされる青森ヒバを土台に使ったことで、その香りが「そよ風」に乗り、床下から室内にほのかに漂い出す効果もあった。内覧会に連れられてきたある子供が、「森の匂いがする家」と言っていたのが印象的である。

 Tさんも家の出来映えに満足してもらったようである。ここでお子さんがのびのび育ち、ご一家の楽しげな団欒が営まれることを願っている。



建物は延べ30坪、工事費は2千万円台、
この内、ソーラーシステム「そよ風」工事費は約150万円となっている。




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