不思議の国の建築 J.HOFFMANN

模型写真1

1982年、ウィーン国立工芸美術大学の建築学部。

学生たちに、ある日奇妙な課題が与えられた。

それは、オーストリアの建築家ヨーゼフ・ホフマンが
(Josef Hoffmann 1870〜1956)
かつて描き残したイメージ・スケッチをもとに、
まだ見ぬ建築の立体的な姿を再現することだった。

それらは、現代の常識を飛び越えた
どこか不思議な建築たちだった‥‥

スケッチ1  ホフマンのスケッチ

これらの建築に名前はない。

以下の名称はホフマンには関係なく付けられたものである。


スケッチ2模型写真2 公園の監視塔

“公園の監視塔”

シンプルで力強い形態。どことなく威厳が感じられる。昔どこかで見たような気もする。でも現代では、例えばこのような踊り場のない階段は禁止されていて造ることができない。ありそうで現実にはない形。絵本の中だけの幻の塔。

スケッチ3模型写真3 穴開きマンション

“穴開きマンション”

とても魅力的な空間構成。しかし残念ながら、現代では容積率の効率、レンタブル比などから言って、とても実現しないだろう。また、最上階は風が吹くと揺れるかもしれない。でも空室があれば住んでみたい。

スケッチ4模型写真4 飛び込み選手の楼閣

(模型制作:ロート美恵)

“飛び込み選手の楼閣”

まるで重力が働いていないような建物。周りが水面なら、飛び込み選手にとっては格好の稽古場となるだろう。高さの違う飛び込み台が3つもある。ただし、踏み込む力には要注意。人より先に楼閣の頭部が飛び込まないように‥‥

スケッチ5模型写真5 断層の家

“断層の家”

建設中、大きな地震が来て頭がずれてしまいました、というような家。ずらすことに機能的な意味はなさそうだが、現在でも十分可能な建築。住み心地も意外といいかもしれない。

スケッチ6模型写真6

“ダイエットした家”

これも充分実現可能な建築だろう。でも、胴体が妙に細い。屋根の大きさから見ても、この家はもとの大きさからだいぶ縮んだように見える。スケッチのシワもそれを示すのだろうか。外側の柱は伸びきったサスペンダーのようにも。

ホフマンの幻想的な想像力に敬意を表します。

解説 / ロート美恵

 これらホフマンのスケッチは、本来、トルコのキオスクなど東洋建築に由来する庭園パビリオンを描いたものである。日本で言えば野中のあずま屋というところだろう。庭園パビリオンは、自然の中で繰り広げられる人々の憩いのひとときに軽快で清涼な空間を提供し、19世紀初頭に流行した。

 庭園パビリオンの醸し出す楽天的で陽気な雰囲気は、当時の粋なウィーンの風情にぴったりだった。オーストリアの誇るモーツァルト、ハイドン、グスタフ・マーラーらの幻想的な音楽の世界は、こうした空間の中で生み出されていった。この時代の庭園パビリオンに精通していたホフマンは、数々の庭園パビリオンをスケッチしたのである。

(参考文献:SD1987.11月号)